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僧侶「リア充呪われろ」#後編 【ファンタジー】


http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1329155963/

僧侶「リア充呪われろ」#前編
僧侶「リア充呪われろ」#後編




88 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:04:54 ID:kF4YZqcE




―――【?】―――


生ぬるい液体に浸る四肢

首だけ回し 口に含む

生臭い鉄の味 構わず飲み込んだ

途端 ふつふつと 感情が涌きあがるのを感じた



89 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:05:29 ID:kF4YZqcE

――なんで、こんな目に遭っているのか。

喉の渇きが収まらない

――なんで、こんな事になってしまったのか。

手で掬い口に運ぶが足りない

――なんで、報われることが無いのか。

何故だか 体が動く

――なんで、こんなにも苦しいのか。

這いずり 啜る

――なんで、自分は。

獣のように ただひたすら喉を潤す

――なんで、



90 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:05:59 ID:kF4YZqcE




――なんで、選ばれたのが勇者なんだ――


.



92 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:06:47 ID:kF4YZqcE

液体がどくん、と脈動し、急激に水位が上がる。

我に返り立ち上がるが、それでも水位は上がり続けている。

液体から出ている部分を見えない何かが這いずる。

もう腰まで沈んでいた。

何かが身体を締め上げ、水底へ引きずり込もうとしている。

必死にもがくが濡れた服と衰弱した体が邪魔をする。

胸から肩、首へと液体はかさを増していく。

口が塞がる寸前に大きく息を吸い、止める。ついに全身が沈む。

這いずり回る何かが速度を上げる。

目、耳、鼻、口。身体に空いたあらゆる穴から何かが中へ入ってくる。

自分の内側を侵される不快感と窒息の恐怖。

息を詰めたままもがく。いつの間にか液体は熱いほどになっている。

…もう息がもたない。気が遠くなる。

残った力を振り絞り、あるはずの水面へ手を伸ばし――

――掻くこともできないまま、意識が閉じた。



93 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:07:26 ID:kF4YZqcE

―――死―――

眩暈がした。体温が下がった。握った拳が、意思に反して震えた。

勇者に、罵詈雑言を浴びせかけたかった。

昨日まで自分が何をしてきたのか、知らせてやりたかった。

今になって態度を変えるのを、なじってやりたかった。

一言も自分が残るだなんて言わなかったのに。

間違えないように気をつけたのに。

結局、いつもの通りになってしまった。

でも、一生、言うつもりなんか、なかったんだ…――

―――香―――



94 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:08:12 ID:kF4YZqcE

―――【拠点地下・最奥】―――


瞼の裏からちりちりと痛む光。硬く冷たい地面。響く風の音。

ゆっくりと目を開けると、少し開けた地下室に、天井に開いた大穴。射し込む光。

…どうやらまだ生きているらしかった。

自分の状況を確認する。両手、やけに重いが動く。両脚、痺れてはいるが動く。

全身を覆う倦怠感も、飢餓感も――喉の渇きも、そのままだった。

上体を起こす。着ていた服は埃にまみれていたが、他に目立った汚れは無い。

穴の真下あたりに魔物の亡骸があった。恐らく拠点のボスだろう。ここからでも微かに腐臭がする。

後ろを振り返ると、暗い通路の遠く向こうに、小さく地下に降りた階段が見える。



95 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:08:48 ID:kF4YZqcE

僧侶(…封印の外に、出られたのか)

呟こうとしたが、かすれてうまく声がでなかった。

解呪が成功したのだろうか。別の条件があったのだろうか。…あの光景は、幻覚だったのか。

考えたいことは山ほどあるが――

僧侶(――みんなは、無事だろうか)

何より先に、それを確かめたかった。

―――



96 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:09:32 ID:kF4YZqcE


重い身体を引き摺るように歩みを進める。

さっきまで眩いばかりに思えていた空は、どんよりとした曇天だった。

瓦礫の山と化した拠点を抜ける。幸いにも付近に魔物の気配は無かった。

あの地下室の大穴は恐らく勇者が開けたものだろう。封印が健在だった間は階段が使えなかったはずだ。

ボスの遺体には刀傷と魔法による傷両方が見受けられたが、それが誰のものかまでは判別できなかった。

気持ちばかりが急かされるが、足取りは遅々としてなかなか進まない。

みんな無事に村へと戻れたのか。あの後に罠はなかったのだろうか。

勇者に、ちょっとした小言を言ってやりたい。自分の扱いが、少しはマシになるかもしれない。

女戦士はまた泣いているかもしれない。昔からいつも泣いてばかりだった。



97 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:10:12 ID:kF4YZqcE

女魔法使いには――ただ、会いたかった。

辛くも封印から抜け出した自分の姿を。心配そうな顔で待っているであろう彼女の姿を。

互いに見せあうだけで、それだけで。充分だと思えた。

魔物の進攻で造られた道沿いに林へ入る。そんなに距離はないはずだが、やけに遠く感じる。

だが、喉の渇きも、飢えも身体の衰弱も、どれも気にはならなかった。

あそこへ帰れば、またみんなに会える。

指先が震える。吐く物も無いのに吐き気がする。時々視界がぼやける。

構わない。最悪、あそこで死ぬんだと思っていた。どんな状態でも生きていることに変わりは無い。

僧侶(下手をしたら一週間を過ぎてるかもな。

    そしたら急いで追いついて、後ろから小突いてやったりしてさ)

遠くに村の入り口が見える。はやる気持ちを抑え、できるだけ早足に――



98 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:10:42 ID:kF4YZqcE

がさり、と物音がした。

僧侶(――魔物か!?)

油断していた。村が見えたことで気が緩んでいたのかもしれない。

この身体で逃げ切れるのか。何体いるのだろう。そもそもこちらは気付かれているのか。

様々な思いを巡らせ、音のした方へ向きなおる。



99 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:11:22 ID:kF4YZqcE




そこには、想像した魔物の姿はなく。村人の姿でもなく。待ち人の姿でもなく。


       白 い シ タ イ が 、 ゆ ら ゆ ら と 。


―――



100 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:12:07 ID:kF4YZqcE


絡み合う肉体。

猥らな水音。

囁くように交わされる言葉。

半裸の男女が抱き合っている。うす暗い林に、なめらかな白が映える。

肌同士を打ち合わせる音。

荒い息づかい。

恍惚の表情。

自分が、見たことのない表情。

抽挿に合わせて大きくなる嬌声。どちらともなく、顔を近づけて―――



101 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:12:41 ID:kF4YZqcE




膝を着いたのは自分の意思か否か。込み上げる吐き気を両手で必死に押さえる。

ぐるぐると世界が回る。目は開いているはずなのに何も見えず、耳穴が拾い集める音もただ通り過ぎる。

全身を舐めるように『何か』が這い回る。染み入るように内側に入ってくる。

吐瀉物を飲み込み、僅かな身じろぎもせず、震える身体を押さえつけ、苦しくなる呼吸さえ止め、

代わりに。『何か』が入った分だけ。

両目から流れる体液だけは、止めることができなかった。

知っていたことだ。これが初めてじゃない。

振り向かせるだけの力が、奪い取るだけの力が無かったからだ。

『選ばれなかった』のは偶然だ。勇者には資格があった。悔やんだところで結果は変わらない。

ならば何故、苦しむのか。

泣かないと決めていたはずなのに。またいつもの日常に戻れると思ったのに。

会いたかったはずなのに。笑いたかったはずなのに。こんなつもりじゃなかったのに。

なら、これは。

湧き上がる感情は、何だ。

―――



102 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:13:40 ID:kF4YZqcE


気がついたときには、どこかの室内にいるようだった。

ぼんやりと目をあけるが、それ以上は何もする気が起きない。

しばらくそのままでいると扉の開く音がした。こちらに気がつくと慌てた様子で誰かを呼びに行く。

ばたばたと、いくつかの足音が近づいてきた。

『――僧侶っ!気がついたんだな!』

『よかったぁ~…もう丸二日も眠ってたんだよ』

『心配したんだからね、僧侶くん…戻ってこれたんだね』

良く知っている声。何故だか、遠く聞こえる。

あの後のことを一気にまくしたてられた。

拠点のボスを倒したこと。村人総出で感謝されたこと。村に滞在する傍ら、復興を手伝っていたこと。

丁度一週間で、自分が見つかったこと。――街道に倒れているのを、村人が見つけたらしい。



103 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:14:17 ID:kF4YZqcE

『…? どうした僧侶。まだどこか痛むのか』

流石にこちらの様子にも気付いたようだ。残りの二人も心配そうに覗き込む。

僧侶「……いや、まだ少し…気分が優れないんだ。…悪いんだけど、一人にしてもらえるかな」

『…確かにひでぇ声だな。お前の体調が治るまでこの村に滞在するつもりだから、ゆっくり休めよ』

『早く元気になるんだよ~。それじゃ、また晩御飯のときにね~』

『何かあったらすぐに言ってね。村の方にもお願いしてあるから』

三人が部屋をでていく。何か言いたかった気もするが、忘れてしまった。

何かを考える気にもなれなかった。布団に横たわったまま、ただ天井を眺めていた。



その晩。女魔法使いが焼いてくれたというパンは、砂の味がした。

.



104 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:15:01 ID:kF4YZqcE

―――【魔王城の目前】―――

.



105 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:15:26 ID:kF4YZqcE

―――思―――

あれからは、いつも通りに、旅は進んできた。

変わったのは夜眠れなくなったことくらいか。

寝ようとしても寝付けない。やっと眠れたかと思うと、血だまりに沈む悪夢に魘される。

加えて毎晩のように響く隣室からの騒音にも耐えかね、酒場で朝まで安酒を呷る事が多くなった。

――いくら酒に溺れようとも、目を閉じればあの光景が蘇る。日毎に酷くなる一方だ。

少しずつ体が蝕まれていく。

そんな自分の様子を初めのうちこそ咎められもしたが、無視を決め込んでいるうちにそれも無くなった。

それでも旅にさしたる影響はでなかった。

勇者は規格外の力を更に伸ばし、女戦士、女魔法使いも腕に磨きをかけている。

早く、この旅が終わって欲しい。

それだけを願うようになっていた。

―――考―――



106 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:15:59 ID:kF4YZqcE


険しく切り立った山嶺に囲まれた窪地。その中心に、城は築かれていた。

記録によると、かつては周辺一帯を統治する巨大な国の本拠であったらしい。

進んだ技術と強大な軍事力を持ちながら、一夜にして滅んだとされる曰くめいた伝説付き。

厳しい自然の城壁と、その周囲に配置された魔物の拠点。ここにいる、と言わんばかりの環境だ。

勇者「いよいよ、だな」

勇者が呟く。

女戦士「うー、ちょっと緊張してきた」

言葉とは裏腹に、その顔は気力で満ちていた。

女魔法使い「ついにここまで来たのね…長かったわ」

じっと城の方を見つめながら言う。

勇者「できるかぎりの準備はしてきたんだ。後は、全力を尽くして――」

  「魔王を、必ず倒す」



107 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:16:43 ID:kF4YZqcE

僧侶「…。」

決意を固めなおす三人を尻目に、どこか空々しい気分で城を見つめる。

伝説とされる装備を数々手にしてきた。

貴重なアイテムも大量に揃えた。

各地の幻獣や霊獣、妖精の加護も授かった。

正直、負ける気がしなかった。ただ一刻も早く終わってほしかった。

勇者「…行くか」

三人が歩き出す。やや間をおいて、その後ろについていく。

忌々しいほどの快晴。魔物の本拠地に似つかわしくない空の下、この旅の終着点に向けて歩き出す。

―――



108 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:17:29 ID:kF4YZqcE


城門の前に辿り着く。遠目に見るよりも遥かに大きく、所々朽ちてはいるが立派な佇まいである。

意外なことに魔物とは一体も遭遇しなかった。

女魔法使い「…あれだけ山の外側には魔物がいたのに」

勇者「ここまで来る奴なんかそうそういないだろうからな。まぁそれを抜きにしてもだ」

女戦士「待ち伏せ、だね。中で沢山待ち構えているんじゃないの~」

頷く。もしかしたらここに魔王が居ないのかもしれないが、

勇者が「奴の息吹を感じる」とか言い張るので信じておく。

女魔法使い「周囲をもっと調べてみる?大きな城だし、もしかしたら抜け道とかあるかも」

勇者「いいって面倒臭い。どこを通っても、どうせ魔物は配置されているだろうしさ」

それにも同意だ。

勇者「どれだけ魔物がいようと、罠が張り巡らされようと、俺たちなら問題にならないさ」

女魔法使い「それは、そうなんだけど」

ちら、とこちらを見てくる。恐らく前のような『呪い』による罠を心配しているのだろう。



109 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:18:23 ID:kF4YZqcE

僧侶「…『呪い』なら、今は精霊達の加護もあるし、対抗策がないわけじゃない」

――最悪、前回のような封印があってもまた自分が残ればいい話だ。

勇者「そういうことだ。心配性なんだよ、女魔法使いは」

女魔法使い「う、うん。そうだよね、ごめんね」

…この頃の女魔法使いはずっとこんな調子だった。

昔のような年長者の余裕はなく、勇者に嫌われることを極端に恐れているようにも見える。

できるだけ平静を装って助け舟を出しておく。

僧侶「万全を期す、って意味では間違いじゃないさ。

    詳しく調べるまではしなくても、一周してみるくらいはいいんじゃないかな」

勇者「…僧侶はお優しいこったな。んじゃ、ぐるっと回ってみるか」

勇者が歩き出すと、女戦士が隣についた。

女魔法使いが何か言いたげにこちらを見るが、結局何も言わないまま小走りで行ってしまった。

―――



110 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:19:12 ID:kF4YZqcE


数週間前。砂漠の町。

夜、宿の部屋から抜け出してきたのはいいが、その日は丁度酒場が定休日だったらしく。

仕方なく、宿の裏手に生えていた樹の下で夜を明かすことにした。

昼間にはじりじりと焼くように熱かった砂も、今ではひんやりとしていて心地がいい。

何を見るでもなく、何を考えるでもなく、ただ眠らないように朝を待っていた。

…不意に、誰かが近づいてくる気配に気付く。

女魔法使い「あー、僧侶くぅん…こんなところにいたんだぁ」

よたよたとした足取りで女魔法使いがやってきた。寒さのためか外套をすっぽりと被っている。

僧侶「…どうしたの、こんな時間に」

女魔法使い「部屋にいないんだから探しちゃったよー。えへへ」

隣に座り込む。酷く酔っているようだった。――普段真面目な女魔法使いにしては珍しい。



111 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:20:16 ID:kF4YZqcE

女魔法使い「あのねぇ…勇者が酷いこというのぉ…」

       「お前は『ついで』だってさぁ…女戦士ちゃんの、おまけなんだってぇ」

       「もう、ほんとに嫌になっちゃう…最近ずっと冷たくて、そっけなくて」

       「嫌いなお酒を毎回飲ませるし、ぜんぜん相手にしてくれなくって…」

正直、聞きたくもない。

心待ちにしていたはずの女魔法使いとの会話が、苦痛でしかない。

女魔法使い「でねぇ…どうしたらこっちみるんだーって怒ったらねぇ…」

女魔法使いが立ち上がり、外套をめくりあげる。

下は、一糸纏わぬ姿だった。

豊満で形のいい胸。白く透通るような柔肌。想像でしか見たことがなかった秘部には――



112 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:20:54 ID:kF4YZqcE



秘部には。空いた酒瓶が挿し込まれていた。


吐き気が、込み上げる。冷えていたはずの身体の芯が、どす黒い炎で燃え上がる。

女魔法使い「勇者がねぇ…相手してほしかったら僧侶でも慰めてこいって…」

耳鳴りでうまく聞こえない。いつのまにか痛いほどに拳が握られている。

女魔法使い「手か口でちゃんとできたら、ビンを抜いてくれるんだって」

食いしばった歯から血の味がする。頭に上った血で、視界がブレる。

女魔法使い「…お願い…僧侶くん。捨てられたくないの…」

なのに。

女魔法使いが泣いているのに。勇者を殴ってやりたいのに。

燃え上がっていたはずの感情が、みるみると熱を失い、消えていく。



113 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:21:32 ID:kF4YZqcE




僧侶「…風邪、ひくよ。砂漠でも夜は冷えるし」

妙に落ち着いてしまったまま、外套を羽織らせる。

僧侶「酷く酔ってるみたいだし、今日はもう寝た方がいい。

    …明日になれば、勇者の機嫌だって治るよ」

ぐすぐすと泣いている女魔法使いの手を引き、宿屋へと連れ戻す。

少し水を飲ませ誰も居ない男部屋のベッドに寝かせる。

むずがるように泣いていたが、しばらくすると眠ってしまったようだった。

相変わらず隣の部屋からは騒音が響いている。そっと布団をかけると部屋を出た。

樹の下に腰掛ける。

ため息すらでなかった。いつものように、朝がくるのを待ち始めた。

自分の中で『何か』がずるり、と蠢いた気がした。

―――



114 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:22:06 ID:kF4YZqcE

―――【魔王城内部】―――


城の周囲を探索してみたが何も見当たらず、正面の城門から城の内部へと進入する。

予想されていた待ち伏せは無かった。

周囲を見て回った際に気付いたことでもあるが、城内は異様に静まり返っている。

魔物はおろか、ネズミの一匹すら。おおよそ生き物の気配が感じられない。

『呪い』を含めたあらゆる罠にも警戒したが、ここに人が居たころに作られたであろう装置しかない。

尤も、その装置も年代を考えると相当に先進的なのだが。

だが、城内に入ったことで判る、禍々しい気配。勇者が感じていた息吹とはこれのことだろう。

パーティに緊張の糸が張り詰める。曲がりくねった回廊を、無言のままゆっくりと進んでいった。

―――



115 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:23:16 ID:kF4YZqcE


装飾の施された両扉。やたらに高い天井を無数の太い柱が支える。

大きな天窓からは外の光が射し込む、荘厳な雰囲気。

位置的にも恐らく最奥にある部屋。

勇者「……もっと、化け物らしい姿をしていると思ったんだがな」

あっけなく、終点に着いた。玉座には、本を片手に気だるそうに佇む初老の男。

見た目こそ人間のようだが、その体からは並々ならぬ気配を発している。

魔王「…城についてから随分と時間がかかったな。寄り道でもしていたのかね」

勇者と女戦士が剣を構え、女魔法使いと自分で守護呪文を唱える。



116 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:23:57 ID:kF4YZqcE

勇者「一人でお留守番して寂しかったのか?安心しな、すぐに寂しくなくなるぜ。

    ――地獄でお仲間に会えるんだからなぁッ!」

一足飛びに勇者が詰め寄り、宝剣を振り下ろす。

鈍い金属音が響き、剣が触れるよりも手前で障壁に阻まれる。

女戦士「もういっぱぁつ!」

続けざまに女戦士が斬撃を繰り出す。が、同様に刃は届かない。

女魔法使い「障壁ね…二人とも下がって!」

二人が後ろに跳ぶ。ほぼ同時に女魔法使いが放った火球が着弾し、爆ぜる。

吹き飛んだ本のページが宙に舞う。…魔王に傷こそ無いが、障壁は剥がれたはず。

勇者「うらぁッッ!!」

再び打ち下ろす。障壁に阻まれることなく、魔王の体に剣が入った――

ように、見えたが。



118 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:25:32 ID:kF4YZqcE

勇者「!!」

障壁とは違った金属音。いつの間にか魔王も剣を抜いており、勇者の剣を受け止めている。

魔王「…ふむ」

何かを確かめるように頷くと、鈍く光る剣から凄まじい連続攻撃を繰り出す。

虚を付かれたせいか、久々に勇者が防戦にまわる。攻撃を受け流しながらじりじりと下がる。

女戦士「――もらった!」

背後から女戦士が斬りかかる。こちらも気付かぬ間に死角に回りこんでいたようだ。

が、魔王が振り返ることなく、女戦士が何かに吹き飛ばされる。

女戦士「きゃあっ!?」

勇者「女戦士!!――ぐおっ!?」

続けて大振りに剣を薙ぐと、剣で受けたはずの勇者をそのまま壁までふっ飛ばす。

魔王を見ると――外套の下から巨大、かつ異形の腕が生え、蠢いていた。



119 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:26:28 ID:kF4YZqcE

魔王「どうした…?化け物らしい姿を想像していたんじゃないのか?」

女魔法使い「…くらいなさい!!」

次の瞬間、女魔法使いが詠唱を完成させ、先ほどよりも大きな火球が魔王を包む。

荒れ狂う火炎の中から魔力の渦が巻き起こったと思うと、巨大な氷柱が投擲される。

女魔法使い「――っ!」

僧侶「危ない!!」

ギリギリのところで弾いて逸らす。精霊の加護があるとはいえ、弾くだけでも手が痺れる。

炎が収まると、まさしく魔物の王らしい、禍々しい姿が現れる。

魔王「まさか、これっぽっちではないだろう。

    貴様らは我を殺すためにここまで来たのだろう」

ボコボコと皮膚の表面が泡立ち、魔王のシルエットが膨れ上がる。

細かった腕や脚は丸太のように膨れ上がり、体全体がどす黒い鱗で覆われて行く。



120 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:27:12 ID:kF4YZqcE


魔王「さあ足掻け。驕るがいい。怒るがいい。我を憎み、我を畏れよ。

   ――そして呪うがいい。この世に、生を受けたことをな」

―――



121 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:28:00 ID:kF4YZqcE


魔王を討つ為の『選ばれし者』の力が強大ならば、魔王の力もまた絶大だった。

桁違いの膂力。目にも留まらぬ俊敏さ。無限かと錯覚するような魔力。

さながら外骨格のような皮膚は、女戦士の剣技も、女魔法使いの呪文もまるで通さない。

勇者を柱になんとか持ちこたえてはいたが、魔王に消耗している様子は見られない。

――勇者が一方的に蹂躙される度、心の内に黒い感情が育つ。

魔王「所詮、こんなものか」

飽きれたような声で呟く。

勇者「…舐めるなぁあああああ!!」

激昂し、勇者が突貫する。渾身の力で振りぬいた剣が、魔王の剣を砕く――が。

魔王「ぬるいわ!!」

その隙を突いて巨大な腕が勇者を捕らえる。

女戦士「――っ、勇者ぁ!」

助けに入ろうとした女戦士に向けて、勇者を投げつける。受け止めることも叶わず床に倒れこむ二人。



122 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:28:45 ID:kF4YZqcE

女魔法使い「二人ともっ!」

攻撃された二人に気をとられた瞬間、魔王の全身から魔力が迸る。

防御すべく守護呪文を唱えるよりも早く、衝撃波が叩きつけられた。

余りの威力に壁まで吹き飛ばされる。全身が押しつぶされるような痛みを訴え、呼吸すらままならない。

やっと収まると、精霊の加護を司っていた指輪が小さな音をたてて崩れた。

魔王「神とやらに与えられた力で英雄気取りか?

    …"創られた"天敵などでは、我は滅びぬ」

勇者「……ッ……畜生…」

魔王がゆっくりと手をかざすと、各々の足元から無数の黒い手が這い出し、拘束する。

女戦士「…ぅ、ぁ」

女魔法使い「……くっ」

指先まで締め付けられ、全く身動きができない。



123 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:29:37 ID:kF4YZqcE


魔王「……さて」

その時。

邂逅を果たしてから、初めて見せる感情らしい感情。

魔王「こちらの撒いた種は、どう育ったのかね」

僧侶「…。」

ぐりん、とこちらを見て、口角を釣り上げる。魔王の双眸に自分の姿が映る。


魔王「――"飲んだ"だろう?僧侶よ」

.



124 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:30:24 ID:kF4YZqcE

途端。『何か』が身体の内で暴れまわる。

突然湧き上がった吐き気に、思わず嘔吐してしまう。

押さえつけようとしても効かない。酷い頭痛。著しい不快感。

様々な感情が勝手に涌き上がり、『何か』と共に荒らしまわり――

臨界を迎えると、身体の表面から黒い瘴気が溢れ出す。



125 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:31:06 ID:kF4YZqcE

勇者「…僧侶に何しやがった!!」

勇者が魔王を睨んだまま叫ぶ。威勢はいいが、拘束を振りほどくだけの力も無いようだ。

魔王「ほう、『何か』とね。我はきっかけを与えたに過ぎないのだがね。

    『何か』したのは、貴様らのほうが余程身に覚えがあるのではないか…?」

体中に巻きついた手がじりじりと這いずる。魔王が何やら唱えると、

女戦士「いやぁっ…何これっ…!」

体の内側に、覗き見られるような不快感。自分の意思とは関係なく記憶が浮かんでは消える。

荒れ狂う『何か』。気色の悪い猫撫で声で、魔王が語りかける。

魔王「なぁ僧侶。可愛いお前は今までこの男に何をされたんだ?」

.



126 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:32:39 ID:kF4YZqcE



無数の目玉が頭の中を蠢く。勇者が小声でやめろ、と呻いた。


魔王「どんな危険な道だろうと躊躇なく独りで放り込まれ」


――みんなのことは絶対に守ってみせるよ――


魔王「"与えられた"力を誇示され自分の居場所から追いやられ」


――神父になりたいなんて思わないけどさ――


魔王「長年好いてきた女を遊び半分に篭絡され粗末に扱われ」


――お前も、女戦士も、女魔法使いだって傍にいてくれるんだから――


勇者「……やめ、ろ」


――だからさ、ヤクソク。魔王を、一緒に――


魔王「この世で最も敬愛し、信頼していた親友に「やめろぉぉおぉおおおおおおお!!!」



127 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:33:36 ID:kF4YZqcE



―― 魔 王 を 倒 す 旅 に 、 一 緒 に 行 こ う ぜ 、" 勇 者 " ――


魔王「…交わした約束を、決意を。我が物顔で振りかざされるのは。

    嘲られ蔑まれ貶められ何食わぬ顔で付き纏われ心の底で笑われていたのは。

    僧 侶 、お 前 は ど ん な 気 持 ち だ っ た の か ね ? 」



128 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:34:39 ID:kF4YZqcE

女戦士「そんなことっ…してない…」

女戦士が震える声を絞り出す。勇者は頭を垂れたまま、微動だにしない。

魔王「そうか。それならば――」

魔王が醜悪な笑みを浮かべる。

魔王「――戦力配分を名目に!!志していた戦士から聖職者へと転職させ!!

    甲斐甲斐しく荷物持ちを始めたのをいいことに!!まるで従者のような扱いをし!!

    資金不足と嘯き!!碌な装備も買い与えず!!

    暇さえあれば見せ付けるかのように情を交わし貪り合い!!

    ――それら全てを疑問にすら感じず、"いつもどおり"に押し込めたのも。

    ……全て、唯の"偶然"だというわけだ…」



129 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:36:09 ID:kF4YZqcE




頭の中から視線が消える。同時に、自分だけが拘束から解かれた。

三人は何も言わない。瘴気を垂れ流しにしたまま、ふらつく足で立つ。

魔王「哀れな哀れな僧侶よ。さぞかし苦しかっただろうな。さぞかし悔しかっただろうな。

    ――可愛そうなお前に、我が全てをくれてやろうではないか」

静かに、滑らかに魔王が語りかける。



130 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:36:55 ID:kF4YZqcE

魔王「案ずることは何も無い。"お前"が失われるわけではない。

    何代も、こうして『魔王』は継がれてきたのだ」

我が子をあやす様に。

魔王「永遠に死ぬことも無い。心に葛藤すら生まれない。望めば、全てが手に入る力だ」

手を差し伸べるように。

魔王「その内に秘めた『呪い』をそいつらにくれてやれ。それだけで全てが済む」

女戦士は小声で何ごとか呟いている。

魔王「そこの女が惜しいのならば生かしておけばいい。

    言い寄られただけで体を許すような女だ。少々躾けてやればいい」

女魔法使いは、ただ俯いている。

魔王「お前がいくら心を寄せても、その連中はお前を一切鑑みてこなかった」

   「孤独なお前には、もはや人の子の間に残してきたものなどあるまい」

   「 そ の 男 さ え 居 な け れ ば 、両 親 を 喪 う こ と も な か っ た だ ろ う ? 」

勇者がビクリ、と肩を震わせる。

魔王「我を受け入れろ、僧侶。"共に"などとは言わぬ。

    お前が、お前こそが、世界を滅ぼすのだ」



131 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:37:53 ID:kF4YZqcE




僧侶「…。」

先ほどよりは湧き上がる瘴気も落ち着き、静かに立ち昇っている

相変わらず『何か』は暴れまわっていたが大分"慣れて"きていた。

僧侶「…聞きたいことがある。『魔王』は一体何のために存在するんだ?

    今までの口ぶりからすると、お前も元は人間だったようだけど」

魔王「『魔王』の存在意義はこの世の全てを破壊し尽す事。それだけだ」

魔王「…"私"自身の記憶は、今ではもう漠としたモノでしかない。

    今のこの身体が、本当に人間だったのかどうかも、もはや思い出せぬ。

    ただ今は、我が内に渦巻く激しい怨嗟の声が、この世を滅ぼせと囁きかける。

    それだけが、我を、私を、俺を、今でも突き動かしている」



132 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:38:51 ID:kF4YZqcE

僧侶「…そう。じゃもう一つ。それだけ強烈な力があれば別に代替わりする必要ないんじゃないの?

    死ぬこともないなら一人で世界を滅ぼせばいいじゃないか」

魔王「人は、食事をせねば生きては行けぬだろう?それと同じことだ。

    お前は今まで愚痴の一つも溢さず、大事に大事にその『呪い』を育ててきただろう?

    それこそが『魔王』には必要なものなのだ。"私"の人格など価値は無い。

    …お前ほどの素質があれば、お前の代で『魔王』も世界も終わりを迎えられるだろう」



133 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:39:48 ID:kF4YZqcE


僧侶「…あっ、そう」

魔王から目線を切り、勇者のほうに向き直る。

迷うまでもない。

僧侶「勇者」

勇者が、ゆっくりと顔を上げる。



134 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:44:36 ID:kF4YZqcE

僧侶「勇者。君は――お前は。結局、今の今まで弱虫のままだったんだな。

    …正直、悪びれずに俺の扱いが当然だと思っていてくれた方が、救いになったかもね。

    どっかに後ろ暗い気持ちがあったから、今そんなに辛い思いをしてるんだろう」

僧侶「悔しかったさ。苦しかったさ。妬んだし、羨んだ。

    何度も何度も考えた。なんでお前が選ばれて、なんで俺が選ばれなかったんだって。



135 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:45:31 ID:kF4YZqcE


    なるべく、考えないようにはしてたけどさ」

勇者「…僧侶。俺は――」

僧侶「でもね」

勇者が口を開こうとしたのを遮る。



136 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:46:15 ID:kF4YZqcE

僧侶「でも、そんなことはどうだっていいんだよ。

    勇者が俺をどう思っていようが、女魔法使いが誰を好きになろうがさ」

   「みんなにどんな扱いをされようが構わなかった。

    行き着く町々で従者扱いされようが気にしないさ。

    危険な場所に一人で放り込まれたってよかったんだ」

   「どんなに苦しくても辛くても悲しくても、旅はやめなかった、その理由」

   「この旅の、俺たちの――

    俺の、目標。生きる意味。それは『魔王』、お前を倒すことだ」



137 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:46:48 ID:kF4YZqcE

僧侶「鑑みてこなかった?違う。その必要が無かったんだ。

    何年この四人で過ごしてきたと思ってるんだ。みんなの気持ちなんか言わなくたってわかるさ。

    ――まぁ、多少予想外な部分もあったけどさ」

僧侶「残してきたものがない?そんなわけない。両親が居なくたって故郷の国はそこにある。

    大地は俺の両親を育み、天は俺が生まれることを許してくれた。

    それだけで、充分だと思える。世界を『呪う』理由なんて、俺には見当たらない」

僧侶「俺が、『呪う』とすれば。

    知ったような口ぶりで言う必要もないことをべらべら穿り返し

    何故そうしているのかもわからず八つ当たりのように破滅を振りまき

    愛してやまない世界の平和と安寧を乱すクソヤロウ。お前だけだ」

僧侶「自分が誰だかもわからなくなったボケ老人になんか、なりたくないね」



138 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:47:22 ID:kF4YZqcE




言い終えると、魔王を睨みつける。

魔王は再び表情を無くすと、ため息をひとつうち、

魔王「…下らん茶番だ。もう充分だ」

片腕を挙げると、その手のひらに凄まじい魔力が集中し、黒い球体が浮かび上がる。

僧侶「人選ミスだったようだね。もっと境遇から"呪われた"奴を探せばよかったんじゃない?」

魔王「…次はそうさせてもらおう。

    消し炭から、その『呪い』の残滓だけでも回収させてもらう」



139 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:47:57 ID:kF4YZqcE

もはや『選ばれし者』に関心も向けず、ただ作業的に、俺たちを消し去ろうとしている。

――暴れまわる『呪い』を飲み込むほど、激しい感情が体中に滾る。

球体は依然巨大化している。あれを食らえば、勇者とてひとたまりもないだろう。

――『選ばれし者』をまるで問題にしない力。圧倒的な暴力。

魔王「――消えるがいい」

――魔王。お前は、本当に。

魔王の手のひらから、死が放たれる。

経験したことのある時間の流れ。吹きすさぶ魔力が眼前に迫る。

――魔王。魔王よ。お前は。貴様は。てめぇは。おのれは。本当に全く心の底から狂おしいほど――



140 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:48:33 ID:kF4YZqcE




僧侶「 嫉 ま し い な 、お ま え 」



―――



141 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:49:16 ID:kF4YZqcE


魔力の塊が、ばくん、と音をたてて消え去る。

続けてこちらを縛ったのと同様に、這い出た『呪い』が魔王を締め上げる。

身体から噴出す瘴気が、その色を濃くする。

僧侶「全くもって嫉ましい。その力が。その態度が。その存在が。

    『選ばれし者』を屠れるその両腕が。剣を通さぬその皮膚が。溢れ出るような魔力が。

    無抵抗に等しい人々を、殴り、蹴り、爪で裂き、剣で砕き、轢き殺し絞め殺し焼き殺し

    いじめてなぶっていたぶって地平に臓物をバラまき、呪い殺すことのできる暴力が。

    魔王、お前はその力を存分に振るってきたんだろう?好きなだけ振るってきたんだろう?
    実に実に羨ましィイイイよなぁああああああ魔王さんよォオオォオオオオオオオオ俺が散々独り
    で暗い道を進み罠に魔物に孤独に傷つき悶え苦しんでるのに弱い者虐めができていいよなァ虫け
    らにも等しい相手をぶちぶち潰すのは気持ちイイよなぁ。え?どうなんだ?どうだったよ」

吐き気がする。眩暈がする。手が震える。

だが沸騰するほど体温は上がり続け臓腑に溜め込んだ怨念が燃えさかる。



142 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:49:54 ID:kF4YZqcE


   「なぁ魔王。そんなお前はなんで俺に呪いを植えつけた?取るに足らない糞袋に?

    呪いの術式に必要な物はなんだ?血と魂。それだけじゃ足りない。

    呪う意思が無くてはならないだろう。

    怨み辛み妬み憎しみ相手を呪う、相手の全てを否定する殺意が。

    お前が欲しいのはそれだったんだろうが。

    血と魂なんざそこらの魔物でも人間でも殺せば手に入るものな」

   「なぁ魔王。お前の『呪い』と俺の『呪い』。どっちが強いと思う?

    一体何人殺して何人分の呪いを溜め込んだんだろうな。異常だよその力は。だが足りてない。

    世界を滅ぼすのが目的というのなら何故全て殺さない。

    理由はお前が呆けたからだ。自らの殺意を失った。

    当然だ。何度も赤の他人と融合し曖昧な状態で世界を呪うことなんてできるわけがない」

   「所詮借り物だ。血も魂も意思すら自分の物でない紛い物だ。その殺意で、俺が殺せるのか」



143 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:50:29 ID:kF4YZqcE

   「 試 し て み よ う じ ゃ な い か 。 な ぁ 、 魔 王 」



144 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:51:06 ID:kF4YZqcE

   「まずはその見下す眼が邪魔だ。なんだ綺麗な球形じゃないか嫉ましいな。そのよく廻る舌も

    邪魔だな取り去ろう。次は爪だ。何人の腹を裂いてきた?羨ましいことだ。面白いな抜いて

    も抜いても生えてくるんだな憎たらしい。それじゃあ次は両腕だ。凄まじい腕力だが関節を

    逆に廻してもその力は出せるのか?雑巾みたいに捻ったらどうだ?硬くてなかなか廻らんな

    その鱗が邪魔だ全て剥がしてやろう魔王でも皮膚の下はピンク色なんだな。これで捻れる。

    関節も増やしといてやろう。血の色も赤なんだな勉強になったよ。次は足だ。捻るだけでは

    芸が無いな。骨を取り出してやろう。はははなんだか滑稽だな。呻く声が煩いなその喉も切

    り取ろう。腹の中はどうなってるかな。なんだお前も中身は糞袋なんだな親近感が涌いてき

    たよ。総て糞なら掻き回しても問題あるまい。素晴らしい再生速度だなもう鱗が生えてきた

    のかもう一回剥がしてやろう何度でも何度でも何度でも。痛いか?苦しいか?そうだったら

    嬉しいことこの上ない。腕はどこまで廻るかな。首はどこまで廻るかな。足はなんだか見苦

    しいから取り払おう。また生えてきたな?何度でも毟ってやる。どうだ痛いか?辛いか?苦

    しいか?助かりたいか?安らぎが欲しいか?消えたいか?殺されたいか?死にたいか?死に

    たいよな?死にたいと言え。死を願え消滅を想え自分を呪え。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね
    ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
    死死死死ししししししねねねねねねね未来永劫。肉片一片すら髪の毛一本すら記憶からも。」



145 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:51:58 ID:kF4YZqcE

僧侶「死ね。唯死ね。赦すのはそれだけだ、魔王」

眼に見えぬ顎が一斉に魔王の身体を貪り喰らう。溢した血の一滴も床ごと抉り呑み込んでいく。

残った肉片に群がり、互いを喰らい合い、ただひたすらに貪欲に。魔王の全てを奪っていく。

遂には最後の一匹となり、自分自身を噛み砕き咀嚼すると、ごくり、と飲み込み顎が失せる。



――玉座の間に、静寂が戻った。

―――



146 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:52:36 ID:kF4YZqcE


ゆっくりと、大きく息を吐く。

全身から漏れ出ていた瘴気も今ではすっかり収まった。四人の息づかいだけが広間に聞こえる。

僧侶「やっと、終わったなぁ」

へんじがない。

心配になって見回すと、それぞれ戦いで傷ついてはいるが命に別状はなさそうだ。

僧侶「ほら、魔王を倒せたんだからさ、お城に報告に行こう!

    皆大喜びするぞー。国中あげての宴になるだろうしさ。

    よーしパパ七面鳥丸ごと食っちゃうぞ~なんて…」

へんじがない。きまずい。



147 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:53:09 ID:kF4YZqcE

僧侶「はぁ…。とりあえず帰るよ。転移の羽使うけどいいよね?」

返事がないのでさっさと準備をしてしまう。

四人を囲うように円を描き、ちゃっちゃと詠唱を済ませる。

僧侶「はーい皆さん忘れ物はないですねー。飛びますよー」

貴重なアイテムだったが問題ないだろう。もう多分、使う機会なんかないし。

掲げた羽が消えると、周囲の景色がぼやけた。



148 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:53:59 ID:kF4YZqcE

―――【故郷の国・王城】―――


着いた場所は城の広間だった。警備に就いていた兵士がどよめいている。

よく知った顔ばかりだったが、現れ方が唐突すぎたのだろう。遠巻きにひそひそと話している。

どう説明したものかと悩んでいると、謁見の間に通じる階段からばたばたと国王が降りてきた。

国王「おお!勇者!よくぞ戻ってくれた!たった今再び神官が神託を授かってな、

    ――遂に、魔王が滅せられたと!」



150 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:54:40 ID:kF4YZqcE

一瞬の静寂を挟んで、周囲のどよめきが歓声に変わる。

長きに渡る魔物との戦いが終わった。

勝ち取った平和と勝利に、誰もが顔をほころばせ、抱き合い、喜んでいる。

国王「勇者よ、良くぞ成し遂げた。成し遂げてくれた。

    …兵の一人もつけられずに旅に出してしまったことを、今でも深く恥じている。

    一国の主としてではなく、まずはこの国を愛する一人の人間として、礼を言わせてくれ。

    ありがとう。本当に…ありがとう…!」

兵士たちも兜を脱ぎ、一斉に頭を下げる。

勇者は、相変わらず"へんじがない"状態だ。

…あんまり黙らせたままだと不審がられそうなので、国王の前に割ってはいる。

僧侶「――あー、王様。ちょっといいですかね」

国王「む、どうしたのかね。なんでも申すがよいぞ」



151 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:55:40 ID:kF4YZqcE

僧侶「はぁ。実は我々も魔王との戦いを終えた直後に、

    転移の秘術でここまで帰ってきた次第でございまして。

    その戦いと長きに渡る旅の疲れから、今日のところは少々休ませて戴きたいのですが」

国王「むぅ…それもそうじゃな。魔王との戦いはさぞ熾烈を極めたことだろう。

    あい判った。今日は疲れた体をゆっくりと休ませるがいい。詳しい話は明日にしよう。

    ――おい、この英雄達のためにとっておきの部屋を用意せよ!

    くれぐれも不備の無いようにな!」

僧侶「や、疲れているんでお世話とかはいいですよ。部屋だけ貸してもらえれば――」

言い終わる前にどこからともなくメイドの大群があらわれる。

なす術もなく、歓声に沸く広間から各々の客室へと押し流されていく。



152 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:56:20 ID:kF4YZqcE

部屋に入ってからも、

やれ喉は渇いていないか、やれ腹は減っていないかと

代わる代わるメイドが出たり入ったりしていた。

今はいいから明日の朝まで放っておいてほしいと言って、

よほどの事でない限り部屋に来ないでと念を押し、やっと落ち着く。

その夜は、夜中になっても騒がしいままだった。

窓の外、城下町にも明かりが絶えることはなかった。

それでも、本当に久しぶりに。

ぐっすりと朝まで寝ることができた。

.



153 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:57:14 ID:kF4YZqcE

―――【翌朝・謁見の間】―――


翌朝。わざわざ部屋まで起こしにきてくれた大臣に急かされ、謁見の間に集まる。

広間に入ると、衛兵だけではなく大臣や街の有力者まで集まり、騒々しかった。

もう既に三人は集まっていた。

おはようと挨拶をすると、目はあわせないまま返事だけは返してもらえた。

国王「さて、集まってくれたようじゃな」

国王が口を開くと、広間が水を打ったように静まり返る。

玉座の方へ向き直り、跪く。

国王「勇者、そして女戦士、女魔法使い、僧侶よ。

    国のため、ひいては世界のため、たった四人でよく頑張ってくれた。

    今一度、平和をもたらしてくれたことに、礼を言いたい。

    本当に、ありがとう」

盛大な拍手が巻き起こる。相変わらず三人は微妙な表情だが、昨日よりは落ち着いているようだ。



154 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:58:00 ID:kF4YZqcE

国王「あー、それでじゃな。褒賞を与える前に、少しだけ聞きたいことがあるんじゃ。

    …我々を長年苦しめてきた『魔王』が、一体なんだったのか。

    そして、その最期を。他ならぬお前たちの口から、聞いてみたいのじゃ」

再び静まり返る。勇者が口を開こうとするが、言いよどんでしまう。

女戦士、女魔法使いも、何かいいたげにしながら、勇者と自分を見比べている。

――この旅の、終わりか。

しっかりと、けじめをつけるべきなんだろう。



僧侶「王様」



155 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:58:59 ID:kF4YZqcE

視線が一斉に集まるのを感じた。

僧侶「僭越ながら、魔王についての調査は私が勇者より仰せつかっていました。

    魔王と、その最期を。私の口から報告させていただけないでしょうか」

国王「おお、そうであったか。では、僧侶に話してもらおう――良いかな、勇者」

覚悟を決めたような顔で、勇者が頷いた。

それからしばらく、魔王について解った事を報告する。

元は人間だったこと。ある滅びた国の住人らしいこと。多数の人間の呪いをその身に宿していたこと。

数々の人間と邪な方法で融合し、我を忘れこの世の全てを呪う存在となっていたこと。

この旅の調査で知りえたことを、全て話した。

国王「――そのようなことが…。魔物を統べる王が、元は人間だったとはな…」

神妙な顔つきで、国王が物思いにふける。

今まで人間とは全く異質の存在と考えていただけに、思うところがあるのだろう。

国王「ふむ、よく調べてくれた。感謝する。

    ――して、その最期はどのようなものだったのかね?」



156 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 04:59:42 ID:kF4YZqcE

勇者は、俯き口を閉ざしたままだ。少しだけ震えているように見えた。

深呼吸を一つ、二つ。大丈夫だ。

僧侶「……魔王との戦いは熾烈を極めました。数多の呪いを取り込んだことによる強大な力。

    常軌を逸した膂力。底知れぬ魔力。

    …『選ばれし者』の力を以ってしても、歯が立ちませんでした」

どよめく広間。用意した台詞を、一字一句。間違えないように。

僧侶「…しかし勇者は、決して諦めませんでした」



157 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:00:34 ID:kF4YZqcE


勇者の目が、こちらを見る。

僧侶「魔王に我々三人が打ちのめされ、一人で魔王と戦うことになっても」

勇者「…。」

僧侶「幾度となく魔王の絶望的な力に膝を付き、傷つこうとも」

勇者「……おい」

僧侶「不屈の闘志で立ち上がり、遂にはその剣で魔王を――」

言い終わる前に、立ち上がった勇者に胸倉を掴まれた。

なんだか前にも似たようなことがあったな、と思い出す。



158 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:01:21 ID:kF4YZqcE

勇者「…何のつもりだお前ッ…!そんなことッ、そんなことしてッ…俺が喜ぶとでも思って…」

僧侶「勇者」

静かな声で、しかしはっきりと。…これもなんだか、覚えがある。

しかし今度は、声を更にひそめて、勇者にだけ聞こえる音量で囁く。

僧侶「勇者。お前が、俺に少しでも悪いと思うなら。贖罪したいと思うのならば。

    お前はこのまま、この国の英雄となれ」

   「民に慕われ、国に敬われろ。その力で、未来永劫、この国を守るんだ。

    事実は胸に秘めたまま、英雄として生き抜き、死んでいけ」

勇者の目を、しっかりと見据える。



160 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:01:57 ID:kF4YZqcE


   「それが――



    ――俺からお前に吐き捨てる、最初で最期の『呪い』だ」

   「受けきってみせろ、勇者。お前ならできることは、もう知っている」



161 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:02:46 ID:kF4YZqcE

勇者が目を見開き、掴んでいた手から力が抜ける。

その手を丁寧に離してやると、国王に向き直り快活な調子で続ける。

僧侶「…失礼しました。実に厳しい戦いでして、

    僅差で勝利を収めたことを勇者は恥ずかしく思っているようです。

    しかし、今またその戦いの全てを話す許可を戴けましたので、続きをお話させていただきます」

勇者が緩慢な動作で姿勢を直すのを横目に見て、それ以降は三人の表情を見ることはなかった。

――憧れ続けた英雄譚を。その華麗な戦いぶりを。英雄の、まさしく理想像を。

朗々と、時々抑揚をつけながら。国を相手に、騙りきった。

.



162 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:03:40 ID:kF4YZqcE

―――【僧侶の自宅】―――


僧侶「よし、こんなとこだな」

片付け、物が無くなった部屋で一人呟く。

僧侶「思ったよりも楽に片付いたな。まぁ一人暮らしならこんなものか」

あれから一週間。

まるで祭りのような喧騒に包まれていた街も日常へと戻り始め、早朝のこの時間はとても静かだ。

魔物の動向を探る調査隊の報告によると、国の周囲に魔物の姿は依然見受けられたものの、

従前の好戦的な様子は見られず、他の野生動物と同じような生態になっているらしい。

自分はというと、集合住宅の一室で旅の支度をしているところだ。

借りてすぐ旅にでることになったので、結局この部屋で過ごす時間は殆ど無かった。



163 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:04:33 ID:kF4YZqcE

―――回―――

国王「感動したッ!!素晴らしいッ!!

    勇者、そなたの名前は永久にこの国に刻まれ、その活躍はいつまでも語り継がれるだろう!!」

やたらにウケてしまった。国王は感動の涙と鼻水をたれながしている。

御付の人に鼻紙をもらい、まだ赤い目で話を続ける。

国王「…勇者よ。そなたには英雄として、これからもこの国を護るために力を貸してもらいたい。

    これからの世代を支える兵士にも、力を分けてもらいたいのじゃ」

つまりは兵士の指南役ということだろう。勇者の性格からして、結局は前線にでることになりそうだが。

勇者が頷いて答える。

どうやら国王の方も勇者が感極まっていると勘違いしたらしく、うんうんと頷いていた。



164 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:05:37 ID:kF4YZqcE

国王「続いて女戦士。そなたの剣技もまた素晴らしいものだ。よって、剣術指南役に任命したい。

    女魔法使いも同様に、その見事な魔術で魔術指南役として、力を貸して欲しい。

    僧侶…は……ううむ」

頭を抱えてしまった。無理もない。

女戦士にも女魔法使いにも実力が及ばない人材を、どう扱えばいいのか困るところだろう。

僧侶「王様。お願いがあるのですが、申し上げても?」

国王「お、おうそうじゃな。うむ、本人の意見を聞くことも大事じゃろうて」

ほっとしたような様子で言う。分不相応な身分を欲しがるのではと、大臣が訝しげにこちらを見ていた。

僧侶「実は、私は旅に出ようと思っています。

    今回の旅で、実に多くの人々と、様々な文化に触れてきました。

    その度に世界の広さを実感し、またより知ってみたいと思ってきたのです。

    魔王を倒した今。この世界を、今一度自分の目で見て周りたいのでございます」 

我ながらよく舌が回る。



165 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:06:53 ID:kF4YZqcE

僧侶「付け加えるならば。

    勇者、女戦士、女魔法使いがこの国を護るならば、何も心配することはありません。

    元より私は三人にくっついていった、言うなれば"ちゃっかり英雄"でございますので」

どっと笑いが巻き起こる。こちらもそこそこウケがよかったようだ。

国王「わっはははは…なるほど、なるほど。良くわかった。よろしい、旅に出ることを認めよう。

    出来る限りの援助を、約束しようぞ」

僧侶「ありがとうございます」

国王「…さて、堅苦しい話はここまでにしよう!

    今日はめでたい日じゃ!上も下もなく、一緒に喜び合おうではないか!

    皆、宴の準備じゃ!!」



166 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:07:30 ID:kF4YZqcE


一斉に歓声に包まれる。誰しもが笑顔で、これから訪れるであろう平和を喜んでいた。

長い戦いで傷ついた人々が、今ようやく心から笑うことができる。

そんな様子を、素直に嬉しく思った。

―――想―――



167 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:08:30 ID:kF4YZqcE


祝勝会は盛大に催され、帰ってきた翌日も城の客室にお世話になることになった。

宴の最中には勇者の両親にも会った。

相変わらず豪快に笑い、もう背丈は同じくらいなのに頭を撫でられた。

わしわしと撫でられながら、しきりに勇者と共に旅をしたことを感謝された。

幼い頃の自分にひっぱられていた姿の印象が強いのだろう。僧侶になら任せられる、と思ったそうだ。

気弱な性格だった勇者を旅にだすことを、ずっと心配していたらしい。

苦笑いを浮かべながら、

勇者はもう立派な大人になったとだけ伝えると、大きな手からそそくさと逃げ出した。

思わず、思い出し笑いを浮かべる。

…ニヤニヤが収まったところで、もう一度がらんとした部屋を見渡した。

両親が亡くなった時点で大部分は処分してしまっていたので、元から物は少なかった。

積み上げられていた本は大体読み終えていたので、街の図書館へ押し付けておいた。

食器も一人分だったので昔からの友人に譲った。彼は最近新しい家族が増えたらしかった。

唯一、部屋に残った両親の形見を手のひらにのせ、眺める。



168 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:09:39 ID:kF4YZqcE

一つずつ身に着けていた、銀の指輪。

神に仕える身だったので、それ以外に財産らしいものはなかった。

その繋がりのおかげで、街の教会に孤独の身を預かってもらえたのだが。

両親も世話になったという神父はやたら厳しかったが、自分一人の身を守れるくらいには鍛えられた。

僧侶「…あの封印の中に、持ち込まなくてよかったな」

旅にでるときに散々迷ったのだが、結局置いてきて正解だった。

少しくすんだ指輪を、指にはめる。



僧侶「さて、と」



169 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:10:25 ID:kF4YZqcE

まとめた荷物を背負う。

鞄から手紙を取り出し、目立つ場所に置いた。

一通は国王に向けて、こっそりと旅に出たことを詫びる文章。

残りは三人に向けて。他の人に見られてもいいように、あたりさわりの無い事を書いておいた。

――勇者のことは、心配ないだろう。

あいつは本当に、悪い奴ではない。

幼い頃こそ周囲から弱虫と呼ばれていたが、

ここぞというときの芯の強さはそのときから持ち合わせていた。

そう遠くないうちに、自分でも納得できる"英雄"になれるだろう。

"選ばれなかった"俺が悩んだのと同様に、

"選ばれてしまった"勇者にも、相応の悩みや苦しみがあったのだと思う。

女戦士は、きっとそんな勇者を支えていける。

お互いに必要とし、支えあって生きていくに違いない。

唯一の気がかりは――

トントン、と。ドアをノックする音。

噂をすればなんとやら。気がかりが、空っぽになった部屋を訪ねてきた。

―――



170 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:10:59 ID:kF4YZqcE


僧侶「…開いてるよ、どうぞ」

しばらく待ってみたが、入ってくる様子がない。

僧侶「…?」

荷物を背負ったまま、ドアへと近づく。

  『あっ…ごめん、ドア越しにお話しても、いいかな?

   ちょっと、その。怖くって…』

なるほど。まぁ仕方がないか。ドア脇の壁にもたれかかる。

僧侶「ん。わかった」

  『…うん。ごめんね』

僧侶「…。」

  『……。』

僧侶「……。」

  『…今日、もう出発しちゃうんだって聞いてね』

どうやら友人伝いでバレたらしい。

僧侶「うん。もう荷物もまとまったし、出るところだった」



171 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:11:40 ID:kF4YZqcE

  『…あのね。その、ええと…。

   こんなこと言っても迷惑かもしれないけれど、私、本当は…』

そこで、言葉が切られる。

僧侶「…いくら思い出を否定したところで、俺は喜ばないよ」

   「勇者と愛し合った時間が全て嘘だったと?違うでしょ。

    あいつの態度が段々変わっていったみたいだけど、心が通じ合ったと思う時間もあったはずだ」

   「大体、そんなこと言い出すならなんで初めから――」



172 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:12:26 ID:kF4YZqcE

ガチャン、と音をたてて部屋の水がめが割れた。

ハッと我に返り、口から漏れ出している黒い瘴気を押し戻す。

僧侶「…ごめん、言いすぎた。それこそ言ってもしょうがないことだった」

   『…うっ、ううん。私が、悪いの…ごめんね』

声が震えている。

いかん、最後だっていうのにまた泣かせてしまった。

   『…何か、割れた音がしたけど大丈夫?』

僧侶「あーうん、空になった水がめが割れちゃったんだ。

    部屋の備品だから管理人が怒るかもしれないね。はは」

   『…。』

静寂。きっと、ドアの向こうでは声をころして涙を流しているんだろう。



173 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:13:11 ID:kF4YZqcE


僧侶「…。」

   『……。』

僧侶「……。」

   『…私が、旅について行きたいって言ったら、怒る?』

僧侶「…怒りはしないけど、連れてはいけないよ」

   『…。』

僧侶「…。」

   『…。』

あー。できるなら言わずに済ませておきたかったけど、言うしかないか。

――多分、今日ここに来てくれた時点で、もう選択肢は決まっていたんだろう。



174 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:14:00 ID:kF4YZqcE


僧侶「…旅に、出ようと思った理由なんだけどさ」

   『…。』

僧侶「もちろん、皆の前で話したことも嘘じゃないんだけど。

    実はまだ、あのときの『呪い』が体の中で燻っているんだ」



175 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:14:48 ID:kF4YZqcE

   『…!』

僧侶「今割れた水がめもそのせい。普段は抑え込んでいられるんだけど、

    ちょっとした感情の昂りで、所構わず破滅を振りまいてしまう」

   「最初は自害しようかと思ったんだけど、どの程度『呪い』が残ってるのかわからないし、

    多かれ少なかれ死んだ場所は呪われてしまうだろうから」

   「だから、この『呪い』を消し去る方法を探しに行く旅に、出ようと思うんだ」

   『…。』

僧侶「…それと、どうしてもこの国にいると…色々思い出す事が多いからね。

    せっかく平和になった故郷の国を、呪いたくないんだ」

   「同じ理由で、女魔法使いも連れていけない。ってわけ」

   『…。』

僧侶「…わかって、もらえたかな」



177 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:15:35 ID:kF4YZqcE


  『…。』

僧侶「…。」

  『……』

  『…わっ、わだし、どうじだら、いいのがなぁ』

僧侶「…。」

   『僧侶くんの気持ちを…知りながらっ、助げもしないで、ただ見ているだげで』

   『魔王に、こ、殺されそうになったときも、

    助けてもらっだのに、怖くなっちゃっで、何も言えなくで』

   『ぞのぜいでっ…僧侶くんが大変な目にあってるのに、何も出来なくて、気付きもしないで』

   『僧侶くんのために、何かしてあげたいのに。…隣にも、いれないなんて』



178 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:16:19 ID:kF4YZqcE

僧侶「…。」

   『…ごめんね。嫌いな人に、こんなこと言われても、しょうがないよね…』

荷物を背負い直し、ドアの前に立つ。

僧侶「…それだけ言ってもらえれば、もう充分だよ」

   『でもっ…!』

僧侶「聞いて。女魔法使い」



179 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:17:01 ID:kF4YZqcE

深呼吸。

僧侶「あくまで結果論だけど、

    おかげで『選ばれし者』でも倒せなかった魔王を、消し去ることができた。

    どんな途中経過があったって、魔王が倒せて、平和を勝ち取れたんだから、俺は満足だよ」

   「それにね。…あーその、女魔法使いはちょっと勘違いしてるっていうか」



180 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:17:54 ID:kF4YZqcE

もう一回深呼吸。心臓がドキドキする。

   「もし、女魔法使いのことを好きじゃなかったら。俺はこんなに苦しんだりしなかったさ」

   「女魔法使いだったからこそ、っていうか…えーもう、なんていうか」

   「…女魔法使いのことは、今でも好きなまま、だよ」



は、恥ずかしい。もうバレバレの恋心だったのかもしれないが、直接言うのは初めてだ。

…ドア越しで、本当によかった。



181 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:18:35 ID:kF4YZqcE


僧侶「…でも、女魔法使いがそれじゃ納得できないっていうならさ。

    一つだけ、お願いしてもいいかな?」

   「この旅が、いつまで続くのかはわからない。

    魔物が大人しくなったとはいえ、途中で帰れなくなってしまうかもしれない。

    でも、女魔法使いが待っていてくれるなら。

    きっと、どんな状況でも頑張って、絶対に帰ってくるから」

ゆっくりと、ドアを開ける。

驚いたような顔。少し赤い、潤んだ瞳。

僧侶「そしたら、そのときはさ」

指から銀の指輪を一つ外し、女魔法使いに手渡す。

僧侶「そのときは、また一緒に生きていってくれないかな?

    …これは『呪い』なんかじゃなくって、『ヤクソク』にしたいな」

大きな瞳に、窓から射し込む朝日に煌く雫。でも。



182 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:19:27 ID:kF4YZqcE


女魔法使い「――うんっ!絶対に、いつまでも待ってるから!」

大好きな人が、大好きな笑顔で、そう言ってくれた。



僧侶「うし、そろそろ人目も増えてくるし、行かないと」

女魔法使い「うん…気をつけてね。

        もしこっちで協力できることがあったら、なんでも伝えてね」

僧侶「うん。女魔法使いも元気でね。

    それじゃ、勇者と女戦士のこともよろしく」

言って、歩き始める。

集合住宅の煤けた扉に手をかけたところで、今度こそ、はっきりと聞こえた。

女魔法使い「…待ってるから」

振り返るのが辛かったので、手を挙げて応える。

扉が、ゆっくりと背後で閉まった。

街の空気はひんやりとしていて、妙に朝日が眩しかった。

.



183 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:20:01 ID:kF4YZqcE

―――【街の入り口】―――


人気の少ない通りを抜けて、街の入り口まで歩く。

途中何人かに怪訝な顔で見られたが、咎められることはなかった。

街を囲む防壁をくぐりぬけようとすると、声をかけられる。

  『おおう、これはこれは英雄の僧侶殿。こんな時間に、どちらへ行かれるのですかな』

僧侶「…僧侶殿って、気持ち悪い呼び方しないでよおっちゃん。

    昔はいくらやめてって言ってもボウズって呼んでたくせに」

番兵「がっはっはっは。まぁそう言うな。

    魔王を倒して世界に平和をもたらした英雄、ってのは事実なんだから、胸はれや」

相変わらず調子がいい。

物心ついたときから街の番兵をやっていて、小さい頃からよくちょっかいを出されていた。

番兵「んで、こんな時間にそんな荷物でどこ行こうってんだい、僧侶よ」

僧侶「どうもこうも、またながーい旅に出るだけだよ。

    ちゃっかり英雄はこっそり退散、ってね」



184 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:20:25 ID:kF4YZqcE

番兵「…ん、まぁ旅に出たいってのなら止めやしないがさ」

昔よりも肌の面積が多くなった頭をがりがりと掻きながら言う。

番兵「ちゃっかり英雄だろうがうっかり英雄だろうがなんでもいいが、あんまり自分を卑下するなよ。

    お前自身、あまり感じてないかもしれないが、

    お前の存在はあいつらの為になってるんだからさ」

僧侶「…だと、よかったんだけどね」

番兵「それにな。世界を滅ぼさんとする化け物に正面から戦いを挑んで、

    こうして無事に生きて帰ってこれたんだ。

    それだけでも、大したもんだよ。他の奴にできることじゃねえ。

    国を守ることしかできなかった俺たちにかわって、魔王をブン殴ってきてくれたんだ。

    今まで傷ついて死んでいったやつらだって、きっと報われた」

番兵「だから、そんなしょげた顔するんじゃねえ。

    世界を救ってやったんだって、堂々とすればいいんだよ」



185 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:21:03 ID:kF4YZqcE

…真正面から褒められるのは久しぶりだったので、なんだかすごく照れくさい。

けれども確実に、さっきよりも心が軽くなった。

案外、こういうことで『呪い』は消えていくのかもしれない。

僧侶「…うーん、さすが伊達に長生きしてないねおっちゃん。良い事言ってくれるじゃん」

番兵「だろう?だからもう少し敬え。んで王様に言ってもうちょいここの給料上げさせてくれ」

僧侶「あっはは、そういうのは勇者に言ってよ」

ごく自然に笑えた。

僧侶「うん、じゃあこっちからもちゃんとお礼をいっとかなきゃね」

姿勢を正し、深く頭を下げる。



186 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:21:34 ID:kF4YZqcE

僧侶「この国を、俺たちの故郷を、今まで護ってくれてありがとう。

   守ることしかできなかったなんて、とんでもない。

   おっちゃんみたいな人達がいてくれたから、俺たちは安心して旅にでることができた。

   おっちゃんみたいな人達が頑張ってくれたから、俺たちはまた帰ってくることができた。

   本当に、ありがとう」

番兵「…どういたしまして、ともいわねぇよ。当然のことをしたまでだ」

顔を見合わせると、お互いにニヤっとした。がっちりと、痛いほどに握手を交わす。

番兵「それじゃあ、いってこい。達者で暮らせよクソボウズ。

   この国のことなら俺らや勇者にまかせとけ」

僧侶「そりゃー心強いや。せいぜい酒呑み過ぎないようにして、しぶとく生きてくれよ」

軽口を叩き合ったところで、街の外へと歩き出した。



187 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:22:11 ID:kF4YZqcE




少し歩き、畑に差し掛かったあたりで、後ろから叫ぶ声がする。

  『――寂しくなったらー!!いつでも帰ってこいよーー!!』

振り返り、両手を振りながら叫び返す。

僧侶「――イヤだっていってもー!!帰ってきてやるから安心しなーー!!」

もう遠くて表情は見えないが、きっと向こうも笑顔だったに違いない。

昇った太陽に照らされる麦畑。雲ひとつ無い晴れ空は、なかなかの冒険日和だった。

思っていたよりも早く、この国に帰ってこれる気がした。



僧侶「まぁ、時間はあるんだし、気楽にやりますかね」



189 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:29:53 ID:kF4YZqcE

以上です。拙い文章ですが読んでいただいてありがとうございました。

メモ帳にずっと書いてたんですが、投稿するとズレるんですね・・・
名前欄とかのことも考えてなかったので次回投稿するときはもっと読みやすいようにします

感想などもらえたら嬉しいです。こんな時間まで見ていただいてありがとうございました。




192 名前:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/02/14(火) 05:39:33 ID:SvsQUibg


最後まで前向きに生きてる僧侶がかっこ良かった
諦めてるか変に悟ってるだけかもしれんけど





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